ニホンヤモリが、教えてくれたこと。
小さな命に教わった、関係の作り方。
空から来た
ニホンヤモリが、家に来ました。
こう書くと、少し風流です。
夏の夜。 窓辺。 白い壁をすっと走る小さな影。
みたいなものを想像するかもしれません。
でも実際は、息子が学校の帰り道を歩いていたら、空から降ってきたらしいです。
空から。
ヤモリ、落下登場です。
あまりにも登場が突然だったので、
名前は エンちゃん になりました。 エンジェルのエンです。
命名の雑さと、由来の壮大さの高低差がすごい。
まず、触らない
最初に思ったのは、
なつくのかな。
でした。
でも、少し調べてすぐに気づきました。
たぶん、これは言葉が違う。
ニホンヤモリは、犬や猫みたいに人になつく生き物ではない。
少なくとも、こちらが期待するような意味では。
正しくは、なつくではなく、慣れる。
この違いは、けっこう大きいです。
なつく、には少し人間側の欲があります。
こっちを見てほしい
手から食べてほしい
安心している姿を見せてほしい
できれば、ちょっと特別な存在だと思ってほしい
かなり欲深いです。
ヤモリ相手に、承認欲求を出すな。
そう思いました。
でも、出ます。 人間なので。
食べない
だから最初は、なるべく相手にしないことにしました。
ケースの中に入れて、 環境を整えて、 水を置いて、
隠れられる場所を作って、 あとはそっとしておく。
こちらとしては、かまいたい。
めちゃくちゃ見たい。 なんなら、ずっと見たい。
でも、向こうからしたら巨大な生き物がのぞき込んでくるだけです。
たぶん怖い。
人間で言うと、引っ越し初日に、窓の外から
ビルくらい大きい大家がずっと見てくる感じです。
嫌です。
敷金返してほしいです。
井森みゆきのこと
2日目。
生き餌を買ってきました。
これで食べてくれたら、ひとまず安心です。
そう思って、そっと入れてみた。
食べない。
まったく食べない。
ここで、少し嫌な記憶がよぎりました。
1年くらい前。 冬の時期に、息子がまたヤモリを連れて帰ってきたことがありました。
その子には、井森みゆきという名前をつけました。
なぜ井森みゆきだったのかは、今となっては誰にもわかりません。
たぶん、その場の勢いです。
命名とは、だいたい勢いです。
でも、その子は冬をうまく越せませんでした。
あとから調べると、クル病 という病気のような状態になっていました。 骨がうまく育たず、関節が曲がってしまう。
小さな体が、だんだん思うように動かなくなっていく。
あのときの後悔が、まだ残っていました。
知らなかった、では済まない
私たちは、普通にご飯を食べます。
普通に家があります。
暖かい部屋もあります。
しかも今は、Substackで自分の考えを世の中に発信する娯楽までありやがる。
一方で、目の前には、小さな生き物がいる。
こちらが連れて帰ってきた以上、 「知らなかった」では済まない。
普段、命をいただいて生きている人間が、
たまたま自分の家に来た小さな命に対して、
できることを調べもしないでどうするんだ。
急に真面目になりました。
ヤモリの前で、倫理が立ち上がることがあります。
AIに聞く夜
そこで、AIに聞きまくりました。
そうです。
今はAIがある。
すぐ聞ける。
この状態って、ストレスですか? この顔は警戒していますか? 生き餌を食べないとき、どれくらい待つべきですか? 環境に慣れるまで、どのくらいそっとしておくべきですか? クル病を避けるには何に気をつければいいですか?
聞きまくりました。
AIからしたら、深夜にヤモリ相談を連投してくる人間です。
面倒だったと思います。
でも、返してくれる。 淡々と。
ありがたい時代です。
昔なら、専門書を探して、掲示板を見て、誰かのブログを掘って、ようやくたどり着いたかもしれない情報に、今はすぐ手が届く。
もちろん、全部を鵜呑みにしていいわけではない。
でも、少なくとも「調べる入口」はすぐそこにある。
責任から逃げる言い訳が、少し減った時代だと思いました。
3日目、4日目
それでも、エンちゃんは食べませんでした。
3日目も、4日目も、 こちらは気になって仕方がない。
でも、できるだけ触らない。 見すぎない。 急に環境を変えない。
これはなかなか難しいです。
心配していると、人は手を出したくなる。
良かれと思って、
いじりたくなる。
何かしてあげたくなる。
自分が安心したくなる。
でも、相手にとって必要なのは、 こちらの安心ではなく、 相手自身の安心かもしれない。
ここでまた、「なつく」と「慣れる」の違いを考えました。
なついてほしい、はこっちの願いです。
慣れてもらう、は相手の時間です。
この差は、小さいようでかなり大きい。
5日目
そして5日目。食べなかったら弱る前に逃がそうと思ってました。
その結果、食べました。
生き餌を。
食べたんです。
その瞬間、家の中に小さな勝利が起きました。
オリンピックなら、国旗が上がっていました。
ヤモリ競技があれば、間違いなくメダルです。
しかも、そこからがすごかった。
食べる。 食べる。 また食べる。
水を得た魚のように、ではなく、餌を得たヤモリのように。
喰う。 喰らう。 貪る。
もはやヤモリ界の範馬刃牙です。
小さな体に、野生が詰まっている。
「お前、そんなに食べられるんかい」
と、こちらが引くくらい食べる。
でも、たぶんそれは急に性格が変わったわけではありません。
慣れたんだと思います。
ここは危険ではない
隠れられる
水がある
急に触られない
餌もある
そう判断するまでに、5日かかった。
こちらからすると5日。 エンちゃんからすると、生きるかどうかの5日。
たぶん、慣れた
これ、発信にも少し似ている気がしました。
前回、私はSubstackについて書きました。
攻略より先に、 自分がどこから喋っているのかを決めたい。
そんな話をしました。
でも、エンちゃんを見ていて思ったんです。
自分の立ち位置を決めたあとに必要なのは、
読者を振り向かせることではなく、
読者が安心して読める環境をつくることなのかもしれない。
読者も、いきなりなつくわけではない。
初投稿を読んで、 すぐ好きになって、 毎回通知を待ってくれて、 コメントまでくれる。
そんな都合のいい生き物ではない。
読者をヤモリ扱いするな、という話ではあります。
でも、関係の作られ方としては似ている気がします。
何度か読む
この人は何を大事にしているのかを知る
急に売り込んでこないかを見る
言葉に無理がないかを感じる
自分のペースで近づいていい場所かを確かめる
そうやって、少しずつ慣れていく。
発信は、相手を捕まえることではなく、 相手が戻ってこられる温度を保つことなのかもしれません。
読者のことを考えた
AIも、たぶん同じです。
AIを使えば、すぐ文章は作れます。 画像も作れます。 企画も出せます。
でも、本当に大事なのは、 速く出すことだけではない。
自分の中にあるものを、 AIとの対話で少しずつ外に出していく。
最初はうまく言葉にならない。 警戒する。 距離を取る。 変な出力も出る。 違和感もある。
それでも、急かさずに向き合っていると、 ある瞬間に食べ始める。
いや、AIは食べません。
でも、急に動き出す瞬間がある。
「あ、自分はこれを言いたかったんだ」 「あ、これなら作れそうだ」 「あ、やってみたいが、やってみたに変わるかもしれない」
そういう瞬間です。
FunStackでやりたいことも、たぶんそこに近いです。
人を無理に変える場所ではなく、 人が自分の中のものに慣れていく場所。
作ることに慣れる
出すことに慣れる
失敗することに慣れる
誰かに見られることに慣れる
いきなり才能を証明しなくていい。
まず、環境に慣れればいい。
急かさない場所
ニホンヤモリが教えてくれたこと。
それは、
関係は、こちらの熱量だけでは始まらない
ということでした。
どれだけ心配しても、 どれだけ好きでも、
どれだけ良い環境を用意したつもりでも、
相手には相手の時間がある。
その時間を奪わないこと。
見守ること
調べること
整えること
待つこと
そして、食べたらちゃんと喜ぶこと。
これくらいしか、人間にできることはないのかもしれません。
でも、それができるなら、けっこう十分なのかもしれません。
こちらの熱量だけでは
エンちゃんは今日も、ケースの中にいます。
たぶん私のことを、飼い主だとは思っていません。
巨大な何か。
たまに餌を入れてくる存在。
くらいだと思います。
それでいいです。
なつかなくていい。
慣れてくれたら、それでいい。
発信も、コミュニティも、誰かとの関係も、 たぶん最初はそのくらいでいい。
急に好きになってもらおうとしない。
ただ、
ここは危なくないよ。 急に捕まえたりしないよ。 自分のペースでいていいよ。
という環境を、少しずつ作っていく。
5日目に食べてくれたエンちゃんを見ながら、 そんなことを考えていました。
ちなみに、食べ始めてからの勢いは本当にすごいです。
ヤモリ界の範馬刃牙。
この比喩だけは、たぶん本人に伝わらないと思います。




サブスタではまだ30記事くらいしか読んでませんが、異質でありながらも優しく引き込まれる記事でした。
世界観確立してますね。
そして私には勇次郎に見えます🐾
私もヤモリ飼ってました。窓についてたのを捕まえてお迎えしたけど、同じくクル病になりました。
カルシウムやビタミン、日の当たる場所にあったけど、だめでした。
生餌もサイズや好みが合わないと食べないので、だんだん大きくなっていく生餌を離すことになったりして、ヤモリの飼育は大変でした。(庭で生餌を探したこともあります)
人になつかないと読んでいたので、飼育箱で気まま自由にしているのを観察して楽しんでいました。
なつかなくてもかわいい。
関係の作り方よりヤモリ飼育の大変さに共感です。